剣道世界大会の舞台裏:オランダ剣道代表のスポンサーになった中国人とは?

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「剣道」という日本文化のフィルターを通して世界を見てみよう。
町道場、学校の部活・授業、大学人・社会人のサークルなどで触れる剣道。いま、日本だけにとどまらず世界に広がっていることをご存知ですか?
私たち日本人が大切に育ててきた「交剣知愛」の文化は、世界に広まって新たな出会いや文化を育んでいます。

HAGAKUREYの「海外剣道」のコラムでは、ヨーロッパ在住のライター・佐藤が剣道を通して出会った世界の人々をご紹介します。私たちが普段日本でみる剣道とは、ちょっと違った世界がみえるかもしれません。
第一回目は、オランダで剣道と居合道を始めた中国人、シャオシューさんへのインタビューです。


Xiaoxu Yang(シャオシュー・ヤン)
1981年10月生まれ(37才)、北京出身。オランダ・アイントホーフェンで国際ビジネスと経営学の学士、ティルブルグで国際ビジネスの修士を取得。2009年末にアイントホーフェンで剣道を始め、2010年後半に居合を開始。現在、剣道参段、居合道二段。

2018年9月に韓国の仁川で開催された世界剣道選手権大会。国によってはオフィシャルスポンサーがついて防具を揃えています。オランダ代表も今回、お揃いの防具で試合に臨みました。スポンサーとして名乗りを上げたのは、オランダの大学でビジネスを学び、剣道防具屋を営む中国人・シャオシューさんです。
なぜ中国人のシャオシューさんがオランダに渡り、オランダ剣道代表選手たちに防具をスポンサーするにまで至ったのでしょう?

国際都市オランダでビジネスを学ぶ


この記事をご覧になっている皆さんは、「留学しよう」と考えたことはありますか?MBAでメジャーな国はアメリカやフランスですが、学費や生活費のバランスからオランダ・北欧の国を選択する方も少なくありません。
シャオシューさんも、オランダの授業料や生活費がイギリスやアメリカに比べて高額ではないこと、さらにそのロケーションの良さから留学を決めたそう。オランダは古くから貿易国として栄え、パリ、ミュンヘン、ブリュッセル、ミラノ、プラハなどヨーロッパの主要都市への抜群のアクセスを誇ります。イギリスのEU脱退を受けて、日本企業を始め多くの企業が支社移転先にオランダを候補としているほどです。

さらに、オランダは非常に国際的な国であり、ほとんどの人が英語を話します。これらの理由からオランダでの修士・学士取得を決意し、渡蘭しました。

そして、自分の決断は間違っていなかったと確信しているそう。
「オランダは、ビジネスだけでなく日常生活の場としても本当に素晴らしい。国際的で多文化的な環境が整っています。人々は、非常にオープンで意見を共有し、異文化を歓迎しています。この国には、異なる文化背景に耐えうる素地があります。」

オランダで剣道を始めた中国人

留学のためにオランダを訪れたシャオシューさん。日本ではなく、オランダで剣道と居合をスタートしたというのでユニークです。
オランダは40年以上の剣道の歴史があります。金沢大学の恵土孝吉先生がオランダにいらしてから、日本人・オランダ人…様々な人々との関わり合いの中で文化を作って来ました。

シャオシューさんも、オランダに住む日本人の先生に剣道を教えていただいたそうです。2009年末にオランダ・アイントホーフェンで剣道を始め、2010年後半に居合を開始。現在、剣道参段、居合道二段です。

防具屋さんを始めた理由

自身も剣道・居合を嗜むシャオシューさんが剣道防具屋をスタートしたのは、自分自身が商品選びに困ったことがきっかけ。

惠光堂 Keikodo

剣道を始めたばかりの頃、アメリカ・ヨーロッパ・中国…様々な国のオンラインショップを比較して防具を選びました。最終的に購入したのは、2mmのミシン刺し防具。他の防具との違いなどを細かに調べ、購入までになんと1ヶ月もかかったそう。
しかし、日本から来た高段者の先生に小手を見せてもらった際、その品質の高さにショックを受けます。それまでは、自分は最高の防具を選んだ、という自負があったそうです。

品質の高い剣道具を届けたい

シャオシューさん曰く、「剣道のお店を始めることは、他のビジネスを始めることと同じ」。いずれも顧客の問題解決の手助けです。お金を賢明に使うこと、考えるための時間を節約すること…投資のようなものかもしれません。少なくとも、お金を使ったことに対して将来後悔しないように、決断することが重要です。

惠光堂 Keikodoでは、様々な防具ショップから比較する時間を節約し、最高の剣道具を提案します。このため、剣道の練習に集中することができます。」

また、シャオシューさんは武州正藍染などの伝統を正しく顧客に伝えること、身に付ける人の安全性と快適さを保証する剣道具のフィット感も重視しています。いい加減にただお金のために物を売るのではなく、小売としての責任を果たしたいと語ります。

オランダ代表のために作った剣道具


ここからは、オランダ代表のためにシャオシューさんがデザインした剣道具について詳しくご紹介します。
この防具は、第17回世界剣道選手権大会に出場するオランダ代表選手のために、特別に設計されました。最大の特徴は、軽やかさとスタイリッシュなデザイン。試合だけではなく、チームの練習でも使用でき、これからのヨーロッパの大会でもたくさん使ってもらいたいという気持ちがあります。

面には、6mmのミシン刺しの布団と、面垂れ部分に3mmの斜め刺しを施しています。バランスのために、面金にはIBB-Duraを使用、補強エリアは織り刺しを使用して重さを最小限にとどめ、実用性を実現しています。面垂れの長さは、選手のリクエストに応えてやや短めに設計。エッジ部分は鹿革のレザーでデザインしています。これにより、防具をより美しくみせ、耐久性も向上させています。

小手は6mmのミシン刺し。手のひら部分は白い鹿革を使用しています。白い鹿革は柔らかく快適です。チームメンバーがこの小手を使い始めて、すぐに慣れて欲しいと思っていました。

垂れは各選手の身長に基づいて設計。女性も男性の垂れを使っていることがありますが、シャオシューさんは性別によってデザインを調整。「女性の選手の皆さんが、小さな違いに気づいてくれたら嬉しいです」と語ります。また、エッジ部分のカットにもこだわりがあります。

一番苦労したのは、胴のデザイン。胸の部分には様々なスタイルと素材を試し、最終的に黒革でオランダ剣道連盟のロゴを刺繍しました。胴台部分にも、同様のロゴをあしらっています。このデザインを叶えてくれたのは韓国のサプライヤー。胴台のロゴデザインはずっと残るもの。一緒に胴を作ってくれたビジネスパートナーに心から感謝しているそうです。

軽くて柔らかな素材。とても動きやすいです

韓国のサプライヤーと共同で製作した胴。オランダ剣道連盟のロゴがあしらわれています

オランダ代表のスポンサーになった理由

最後は、シャオシューさんが今回オランダ剣道代表のスポンサーになった理由についてです。
シャオシューさんは、オランダで剣道と居合道を始め、審査を経て段位を取得してきました。オランダ剣道連盟に所属していたことを誇りに思っています。また、試合やセミナーで剣道用品販売をさせてもらったこともあり、自分のビジネスの成長を支えてもらったという気持ちがあるそうです。
シャオシューさんは2017年に母国の中国に帰りましたが、中国でも剣道ビジネスを続け、いまなおオランダとのつながりを大切にしています。今回のスポンサーシップは、オランダで剣道を学び、交友関係を築いてきたシャオシューさんとオランダ人剣士達との友情とも言えるでしょう。